第一話「開封」とある街にある5階建マンションの一室。
休日の朝にしては慌ただしい母のその様子を見ながら、ニコは朝食のスクランブルエッグを食べ終えた。
( ノ^^)(おかーさんの気が散ったら、悪いし) 邪魔にならないであろうタイミングを見計らって料理のなくなった皿をまとめ、キッチンの流し台へ向かう。
──しかし母が毎日皿を洗っているのを見ているので、あのように真似すれば出来る、かも。 そんなようなことを考えて、やはりやめた。
「──それじゃあ、お母さんこれからお仕事行ってくるからね。せっかくのお休みの日なのに、一緒にいられなくてごめんね、ニコ…」 ( ノ^^)「大丈夫だよ、おかーさん。ニコ良い子で待ってるから」 「…戸締りには気をつけて、誰か来ても出なくて良いからね」 ( ノ^^)「うん。お仕事がんばってね。いってらっしゃい」
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
母の背中を見送ってから小一時間ほど。
( ノ^^)(…音、小さくしないと……) このマンションは壁が薄い、と母が言っていたことを思い出し、急いで音量調整ボタンを押す。
( ノ^^)「あ…雨………」 映し出される傘のマーク。
疲れて帰ってきた母が、ずぶ濡れになった洗濯物を見たらどう思うだろう。きっと悲しむに違いない。
一人でベランダには出るなと言われているが、今回だけ。 自分にそう言い聞かせ、ニコはベランダの鍵を開ける方法を考える。
( ノ^^)(うーん…そうだ、キッチンの踏み台を持ってこよう) ニコが落ちないように踏み台は足場が広く、少し大きめのものだったが、重量はそこまでなく、何とかベランダの前まで引きずってくることが出来た。
( ノ^^)(あとは…あの大っきいカゴかな…) 取り込んだ洗濯物を入れておく大きなカゴ。
( ノ^^)「あっ…そうか」 ニコはベランダのある部屋に戻り、大きな押し入れの前に立つ。
――雪崩が起こった。
長らく使われていない来客用の布団。
それらが落ちてくる前に離れたので怪我はなかったが、目の前で散乱した押入れの中身を見てニコは血の気が引くのを感じた。 (|i|ノ^^)(ど、どうしよう、どうしよう……!) (;ノ^^)(片付けなくちゃ…) ::(;ノ^^)::「ぐぐぐ………」 (;ノ^^)(………これ…むりだ……) 途方に暮れるニコの目の前に、時間差で落ちてきた物が転がってきた。
( ノ^^)「あっ……床が…」 ( ノ^^)(前におかーさんが、ジュースをこぼしたらシミになるって言ってた……) ( ノ。^^)「…拭かなきゃ。シミになっちゃう……」 次から次へと起こる不運によりぐちゃぐちゃになる頭を何とか動かし、まずは雑巾を取りに行こうと床を見つめていた顔を上げる。
( [:| [ー]|:])「………久しぶりの外である」
目の前に、紫色の影のようなものが佇んでいた。
そこにある大きな一つ目が、ゆっくりと重そうに開かれる。
( ノ^^)「」 ( ノ^^)「シミになっちゃった……」 ( [:| [〒]|:])「何の話である」 影はじとりとニコを一瞥し、ふと何かに気付いたように辺りを見回す。 ( [:| [〒]|:])「しかし……まさか、貴様が我輩を呼び出したのであるか?
( [:| [〒]|:])「まあいい。それでは願いを言うのである」 影は再度ニコに向き合い、仰々しく片手を差し出す。
( ノ^^)「あの―――
Σ( [:| [〒]|:])「え!?」 ( ノ^^)「もうしわけありませんが、また後日お越しください。
母が不在の時のためにたくさん練習したセールスお断り文句を披露するニコ。
( ; [:| [ o]|:])「いやそっちが我輩を呼んだのであろう!?」 ( ノ^^)「呼んでない…」 ( ; [:| [〒]|:])「そ、そんなはずは……」 ( ノ^^)「それに知らない人とは喋っちゃいけないっておかーさんが言ってた」 ( [:| [〒]|:])「……そうか。では自己紹介をするとしよう」 ( ノ^^)(今されても知らない人は知らない人だと思う……) 大きく息を吐き、影は乱れたシルエットを整える。 ( [:| [〒]|:])「我輩は魔神グリート。我輩を探し出し、呼び出すことのできたものの願いを叶えてやる存在である。
嘲笑じみた目でニコに視線をやる魔神グリート。
( ノ^^)「ランプのまじんだ」 ( [:| [〒]|:])「そうそう、たしかおとぎ話なんかにも出てくるであろう。知らないひとではないのである。
欲しいもの。 なんだか難しい話をされたが、ニコはなんとか「魔神が願い事を叶えてくれるらしい」と理解した。 お菓子が食べたい。
たくさん思いつく……が。
それに、ニコにはまず確認しなければならないことがあった。
( ノ^^)「それって……
――ある時母は言った。
父は仕事で海外にいるため、いつも家にはニコと母の二人だった。
そして我に返る度に思うのだった。
もちろん、そんな経緯などニコは知る由もないのだが。
( [:| [〒]|:])(この幼子……先ほどから年齢の割にしっかりしすぎではないか?)
グリートはかつて"主人"だった者たちのことを思い出す。
( [:| [〒]|:])「…もちろん。下等な悪魔でもあるまいし、命と引き換え等とは言わないのである。
( [:| [〒]|:])(まあ、正確にはしっかりと対価はいただくのであるが…。
( ノ^^)「無料かぁ……うーん……」 ( [:| [〒]|:])(それにしても、真っ先に金について聞くなど、随分と卑しい幼子であるな。
( [:| [〒]|:]) (………まあ……)
( [:| [ー]|:]) (そんな愚かな生き物の"欲"を食わねば存在を維持できない我輩も、大概なのであるが)
グリートがしっかりいただく対価とは──人間の欲。 欲を食らうことで存在を維持し、一定の量食えなければ文字通りの消滅。
その時ニコは何かを思いついたように顔を上げた。
( ノ^^) 「お菓子」 ( [:| [〒]|:])「え?」
( ノ^^)「お菓子持ってくる」 言い終わると同時にニコはキッチンへと駆け出していた。
ひとり唖然とニコの消えた先を見つめ、大きなため息を一つ。 (; [:| [〒]|:])「今までで一番やりづらいのである…」
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
袋に詰まったお菓子と皿を持って戻ってきたニコはその中から一つを取り出して封を開ける。 そして袋の中に手を入れ、取り出した中身をグリートに差し出す。
( ノ^^)「お客さんにはお菓子を出すって、おかーさんが言ってた」 ( [:| [〒]|:])「は、はあ………そうであるか…」 ( ノ^^)「だから、あげる」 (; [:| [〒]|:])「…………ど、どうも」
急に差し出されたお菓子。
( ノ*^^)「これはね、おかーさんが作ってくれたクッキーだよ
グリートが受け取ったのを確認して、ニコは嬉しそうにそう言った。
( [:| [〒]|:])(まあ……たしかに、美味い) 最後に何か食べたのはいつだっただろうか。
ニコはクッキーを全て皿に出し、自分とグリートの中間地点に置く。
( [:| [〒]|:])「久しぶりに物を食べたが、この世界の食べ物は大変美味であるな。
口の中からクッキーが消えたのを確認し、目の前に置かれた皿に手を伸ばす。
( [:| [〒]|:])「あと他には永遠の命とか……」モグモグ ( [:| [〒]|:])つ●「一生遊んでも使いきれない金とか…………」ヒョイ ( [:| [〒]|:])「………あー…我輩的には抹茶よりチョコレートのほうが美味いであるな……」モグモグ ( [:| [〒]|:])つ○「えーとあとは…………」ヒョイ ( [:| [〒]|:])「…ん?抹茶も後味がスッキリしていて中々美味いのである……」モグモグ 食べ終わったらまた一枚、また一枚とクッキーが皿から消えていく。
ニコが持ってきた袋の中にはまだ他にも入っているようで、どんなものが入っているのかとグリートは卑しくも覗き込もうとする。 その時視界の端に今更映った、部屋に散乱した色々なもの。
( [:| [〒]|:])「ところで、何故こんなに散らかっているのである?」 ( ノ^^)「あっ……ここ片付けなきゃいけないんだった…」 ( ノ^^)、「ニコが押し入れの扉開けたら落ちてきちゃったの……。
( ノ;-;)「……お、おかーさんのお手伝いしようと思ったのに……おかーさんに、っ迷惑……」 忘れていた状況を思い出し言葉にしたことで、自分の力だけではどうしようも出来ない現状に涙がこみあげてくる。
そんなニコを、困惑の表情で見つめるグリート。
( [:| [ー]|:])「仕方ない。特別に一度だけ手伝ってやるのである」 グリートが少し手を動かすと、部屋に散乱した荷物はふわりと浮き上がり、押し入れの中にすっぽりと収まった。 おそらく、元々の収納状態よりも良い。 ( [:| [〒]|:])「どうだ?我輩に願えばこれ以上のことも何でも思い通りなのである。分かったら早く──」 ( ノ。^^)「あ、ありがとう!ありがとうおじちゃん!」 ( [:| [〒]|:])「え」 グリートからしてみれば、願い事のきっかけになればと魔法を使って部屋の荷物を押し入れに詰め込んだだけだったが、ニコにとって、それは大変な僥倖であった。
今までと変わらぬ笑顔のはずだが、ニコの表情は心からの感情が滲み出ている、と表現するに値するだろう。
──『ありがとう!』 それはグリートにとって久しぶりに聴いた言葉であり、久しぶりに自らに向けられた感情だった。
なのに、あまりに嬉しそうにお礼を言ってくるものだから、 ( [:| [〒]|:])(やってよかった……のか…?) ( [:| [〒]|:])「……役に立ったなら、良かったのである」 ( ノ*^^) 嬉しい、と思った。
『やあグリート。つまらなさそうな顔をしているな』 『……誰のせいだと…。貴様がさっさと願い事を決めないからである』 『うーん……私なりに考えてはいるんだが、なかなかひとつを選ぶのは難しい。
『変わった欲である……というか、むしろ変態であるな……』 『失礼な奴だ。人のために何かするというのは、世界が良くなるための第一歩だと……私は思うんだがな』
( [:| [ー]|:])(…………ああ、なるほど。
( [:| [〒]|:])(今ので困り事は解決してしまったようであるが……) ( [:| [ー]|:])「…………。
「ここにいるから」、と言いながらグリートは自分が眠っていた赤い提灯を手繰り寄せ、もう一方の手でポンポンと叩く。 ( ノ^^)∂「ごしゅじん」 ( ノ^^)「……なんで?」 ( [:| [〒]|:])「ご主人には願い事がまだ残っているからである。
( ノ^^)「わかった。
( [:| [〒]|:])「早速であるな…いや…いいけど…」 ニコはベランダへ続く窓を全身に力を込めて開けた。 ( ノ^^)「踏み台あるけど、お布団は重くて多分持てないから……
ひゅう、と小さく冷たい風が吹いた。
( [:| [〒]|:])「……ご主人の母はご主人にこの仕事をしろと言ったのであるか?」 ( ノ^^)「え?
( [:| [〒]|:])「我輩が思うに…ご主人にこの作業は危険である。
( ノ^^)、「でも、雨が降ったら洗濯物が濡れちゃう…おかーさん悲しむ…」 ( [:| [〒]|:])「ふむ。雨が降らなければ良いわけであるな。
さも当然といったような口調でグリートは告げる。
( [:| [〒]|:])「もし降ったらその時は我輩がなんとかするから……まあ、ご主人はお菓子でも食べながらのんびり空でも見ていると良いのである」 自分が何とかするから、とまで言われてしまい、ニコは上っていた踏み台から下りる。
ふたりはお菓子の入った袋からクッキーを取り出すと、個包装されたそれを開封し、空を眺めながら一口かじった。
第一話「開封」 -完- |