第一話「開封」

とある街にある5階建マンションの一室。
バタバタと忙しなく動き回る足音、扉の開閉音。

休日の朝にしては慌ただしい母のその様子を見ながら、ニコは朝食のスクランブルエッグを食べ終えた。
いつもなら母と二人のんびりテレビを見て、今日は何をしようとか話をするのだが、この日のテレビは付けられておらず沈黙していた。
リモコンに手を伸ばし、テレビを付けようかと考えたがニコは手を引っ込め、大人しく座り直す。

( ノ^^)(おかーさんの気が散ったら、悪いし)

邪魔にならないであろうタイミングを見計らって料理のなくなった皿をまとめ、キッチンの流し台へ向かう。
ニコのために常備されている踏み台に上り、シンクの中へ皿を置く。
洗い物は、まだしたことがない。

──しかし母が毎日皿を洗っているのを見ているので、あのように真似すれば出来る、かも。

そんなようなことを考えて、やはりやめた。
優しい母のことだ。
きっと自分のことが気になって朝の準備どころではなくなってしまうだろう。
また次、母に余裕があるときにやればいい。
今日のところはいつも通り、皿を水につけておくだけでキッチンを離れることにした。

「──それじゃあ、お母さんこれからお仕事行ってくるからね。せっかくのお休みの日なのに、一緒にいられなくてごめんね、ニコ…」

( ノ^^)「大丈夫だよ、おかーさん。ニコ良い子で待ってるから」

「…戸締りには気をつけて、誰か来ても出なくて良いからね」

( ノ^^)「うん。お仕事がんばってね。いってらっしゃい」

■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

母の背中を見送ってから小一時間ほど。
ニコは遊び相手のぬいぐるみを放し、テレビをつけた。

( ノ^^)(…音、小さくしないと……)

このマンションは壁が薄い、と母が言っていたことを思い出し、急いで音量調整ボタンを押す。
映った画面には、これからの天気予報が表示されていた。

( ノ^^)「あ…雨………」

映し出される傘のマーク。
今はまだ晴れている空の下、ベランダでは洗濯物が静かに風に揺れている。

疲れて帰ってきた母が、ずぶ濡れになった洗濯物を見たらどう思うだろう。きっと悲しむに違いない。
――では、雨が降る前に取り込んでおけば……?

一人でベランダには出るなと言われているが、今回だけ。

自分にそう言い聞かせ、ニコはベランダの鍵を開ける方法を考える。
今のままでは頭上にある鍵に手は届きそうもない。

( ノ^^)(うーん…そうだ、キッチンの踏み台を持ってこよう)

ニコが落ちないように踏み台は足場が広く、少し大きめのものだったが、重量はそこまでなく、何とかベランダの前まで引きずってくることが出来た。
踏み台に上り、ベランダの鍵を開ける。
カチャン、といつもより大きく聞こえた鍵の音。

( ノ^^)(あとは…あの大っきいカゴかな…)

取り込んだ洗濯物を入れておく大きなカゴ。
バスルームへ向かうも見当たらず、廊下、リビング、キッチンと家中を見回るがやはりどこにもない。

( ノ^^)「あっ…そうか」

ニコはベランダのある部屋に戻り、大きな押し入れの前に立つ。
あと見ていないのはこの中だけだった。
スライド式の扉に手をかけ、横に引く。

――雪崩が起こった。

長らく使われていない来客用の布団。
家電の入っていた空き箱。
中身がたくさん入ったプラスチックの小物入れ。
そして、探していた白い大きな洗濯カゴ。

それらが落ちてくる前に離れたので怪我はなかったが、目の前で散乱した押入れの中身を見てニコは血の気が引くのを感じた。

(|i|ノ^^)(ど、どうしよう、どうしよう……!)

(;ノ^^)(片付けなくちゃ…)

::(;ノ^^)::「ぐぐぐ………」

(;ノ^^)(………これ…むりだ……)

途方に暮れるニコの目の前に、時間差で落ちてきた物が転がってきた。
いつか家族で行ったお祭りで見たような、赤い提灯。
何でこんなものが?と思うと同時に、やけに暗い提灯の影は液体のようにじわじわと広がっていく。

( ノ^^)「あっ……床が…」

( ノ^^)(前におかーさんが、ジュースをこぼしたらシミになるって言ってた……)

( ノ。^^)「…拭かなきゃ。シミになっちゃう……」

次から次へと起こる不運によりぐちゃぐちゃになる頭を何とか動かし、まずは雑巾を取りに行こうと床を見つめていた顔を上げる。


( [:| [ー]|:])「………久しぶりの外である」

目の前に、紫色の影のようなものが佇んでいた。
中心には仮面のようなもの。

そこにある大きな一つ目が、ゆっくりと重そうに開かれる。
ニコと影の視線が合った。

( ノ^^)「」

( ノ^^)「シミになっちゃった……」

( [:| [〒]|:])「何の話である」

影はじとりとニコを一瞥し、ふと何かに気付いたように辺りを見回す。

( [:| [〒]|:])「しかし……まさか、貴様が我輩を呼び出したのであるか?
      こんなに幼いうちから我輩を探し出してまで満たしたい欲があるとは……世も末であるな」

( [:| [〒]|:])「まあいい。それでは願いを言うのである」

影は再度ニコに向き合い、仰々しく片手を差し出す。


( ノ^^)「あの―――
    母は不在にしております」

Σ( [:| [〒]|:])「え!?」

( ノ^^)「もうしわけありませんが、また後日お越しください。
    だめならけーさつを呼びます」

母が不在の時のためにたくさん練習したセールスお断り文句を披露するニコ。
噛まずに言えたことにこっそりと安堵する。

( ; [:| [ o]|:])「いやそっちが我輩を呼んだのであろう!?」

( ノ^^)「呼んでない…」

( ; [:| [〒]|:])「そ、そんなはずは……」

( ノ^^)「それに知らない人とは喋っちゃいけないっておかーさんが言ってた」

( [:| [〒]|:])「……そうか。では自己紹介をするとしよう」

( ノ^^)(今されても知らない人は知らない人だと思う……)

大きく息を吐き、影は乱れたシルエットを整える。

( [:| [〒]|:])「我輩は魔神グリート。我輩を探し出し、呼び出すことのできたものの願いを叶えてやる存在である。
      矮小な生き物の不憫な一生の中での"飴"みたいなものであるな」

嘲笑じみた目でニコに視線をやる魔神グリート。
その視線の意味に気付くことなく、ニコはいつもの変わらない表情で「それって、」と呟く。

( ノ^^)「ランプのまじんだ」

( [:| [〒]|:])「そうそう、たしかおとぎ話なんかにも出てくるであろう。知らないひとではないのである。
      だから、何でも良いからさっさと願いを……たとえば欲しいものやしたいことを言ってみるのである。       貴様のような幼子にはどうせたくさんあるのだろう?」

欲しいもの。

なんだか難しい話をされたが、ニコはなんとか「魔神が願い事を叶えてくれるらしい」と理解した。

お菓子が食べたい。
おもちゃも欲しい。
たくさん遊びたい。

たくさん思いつく……が。
そこまでして叶えたいかと言われると、どうもしっくり来ない。

それに、ニコにはまず確認しなければならないことがあった。

( ノ^^)「それって……
    "無料"なの?」


――ある時母は言った。
『タダより怖いものはないのよ』、と。

父は仕事で海外にいるため、いつも家にはニコと母の二人だった。
ニコの世話をしながら自身も仕事をし、へとへとになる毎日。

……もう少し楽ができてもいいのではないか。
無数に届く迷惑メールを削除しながら母は思う。
何故か4億円を赤の他人から無条件で譲渡されたって、
何故かテレビでも人気のアイドルからお近づきになりたい旨のメールが来たって。
そういう奇跡もあるんじゃないだろうか。
そう思う夜を何度も明かした。

そして我に返る度に思うのだった。
いや、そんなわけあるか、と。
このままだといつか、好奇心だか現実逃避といった甘えから怪しいメールを開いてしまうかもしれない。
そして、母は自戒の念を込めて言うようになった。
『タダより怖いものはないのよ』、と。

もちろん、そんな経緯などニコは知る由もないのだが。
大好きな母がそう言うからそうなんだろうな、という気持ちで覚えてしまった。

……というわけで、変わらぬ笑顔でそんなことを聞いてくるニコに、グリートは怪訝そうな顔をする。

( [:| [〒]|:])(この幼子……先ほどから年齢の割にしっかりしすぎではないか?)

グリートはかつて"主人"だった者たちのことを思い出す。
ふとしたことで幼い子供に呼び出されることはあった。
しかしどの子供も願い事が叶うと聞けば、何の疑問も抱かずに好き勝手願い事を言っていたものだ。
自分が詐欺師まがいのタチの悪い悪魔だったらどうするのか。

変に疑われて渋られるよりは、まったくもって好都合なのだが。

( [:| [〒]|:])「…もちろん。下等な悪魔でもあるまいし、命と引き換え等とは言わないのである。
      ましてや、金銭などと…」

( [:| [〒]|:])(まあ、正確にはしっかりと対価はいただくのであるが…。
      どうせコイツらには知る由も影響も…多分ないのだし、言うだけ無駄なのである)

( ノ^^)「無料かぁ……うーん……」

( [:| [〒]|:])(それにしても、真っ先に金について聞くなど、随分と卑しい幼子であるな。
      いつの世も、欲に溺れる生き物たちはなんと愚かで滑稽なのか……)

( [:| [〒]|:]) (………まあ……)

( [:| [ー]|:]) (そんな愚かな生き物の"欲"を食わねば存在を維持できない我輩も、大概なのであるが)

グリートがしっかりいただく対価とは──人間の欲。

欲を食らうことで存在を維持し、一定の量食えなければ文字通りの消滅。
魔神グリートはそんな不安定な存在であった。
幸いにも人間はいつの時代も欲に欠かない生き物だったため、長い間人間で言う"空腹感"を覚えずにいたが、どうやら今回は少し雲行きが怪しい。

その時ニコは何かを思いついたように顔を上げた。
願い事が決まったのかとグリートは欲の気配を探ったが、今までと特に変わった様子はない。
どういうことかと思考を巡らせていると、ニコは言った。

( ノ^^) 「お菓子」

( [:| [〒]|:])「え?」

( ノ^^)「お菓子持ってくる」

言い終わると同時にニコはキッチンへと駆け出していた。
グリートが止める間もなく、ニコの姿は部屋から消えた。

ひとり唖然とニコの消えた先を見つめ、大きなため息を一つ。

(; [:| [〒]|:])「今までで一番やりづらいのである…」

■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

袋に詰まったお菓子と皿を持って戻ってきたニコはその中から一つを取り出して封を開ける。

そして袋の中に手を入れ、取り出した中身をグリートに差し出す。
意図が読み取れず、グリートはニコと差し出されたお菓子を交互に見る。

( ノ^^)「お客さんにはお菓子を出すって、おかーさんが言ってた」

( [:| [〒]|:])「は、はあ………そうであるか…」

( ノ^^)「だから、あげる」

(; [:| [〒]|:])「…………ど、どうも」

急に差し出されたお菓子。
渋々といった面持ちで、グリートはニコの手からお菓子を受け取る。

( ノ*^^)「これはね、おかーさんが作ってくれたクッキーだよ
    とっても美味しいんだよ」

グリートが受け取ったのを確認して、ニコは嬉しそうにそう言った。
別に食欲など無いし食べてみたいとも思わなかったが、円滑に願い事をさせるためにここは食べてやるのが正解かとグリートは判断し、クッキーを口の中に放り込んだ。

( [:| [〒]|:])(まあ……たしかに、美味い)

最後に何か食べたのはいつだっただろうか。
食べる必要がないし、食べたいという欲もなかったし、誰かに食べろと言われたこともなかったからもう記憶に残っていない。

ニコはクッキーを全て皿に出し、自分とグリートの中間地点に置く。
ニコが一枚取って食べたのを見て、それに倣いグリートも一枚を手に取り、口に入れる。

( [:| [〒]|:])「久しぶりに物を食べたが、この世界の食べ物は大変美味であるな。
      ……そうだ。一生お菓子に困らないようにしてやることもできるのである」

口の中からクッキーが消えたのを確認し、目の前に置かれた皿に手を伸ばす。
色の違うクッキーがあるが、もしかして味が違うということか。

( [:| [〒]|:])「あと他には永遠の命とか……」モグモグ

( [:| [〒]|:])つ●「一生遊んでも使いきれない金とか…………」ヒョイ

( [:| [〒]|:])「………あー…我輩的には抹茶よりチョコレートのほうが美味いであるな……」モグモグ

( [:| [〒]|:])つ○「えーとあとは…………」ヒョイ

( [:| [〒]|:])「…ん?抹茶も後味がスッキリしていて中々美味いのである……」モグモグ

食べ終わったらまた一枚、また一枚とクッキーが皿から消えていく。
もはや願い事のセールストークは完全に止まり、食べる口しか動いていない。

ニコが持ってきた袋の中にはまだ他にも入っているようで、どんなものが入っているのかとグリートは卑しくも覗き込もうとする。

その時視界の端に今更映った、部屋に散乱した色々なもの。

( [:| [〒]|:])「ところで、何故こんなに散らかっているのである?」

( ノ^^)「あっ……ここ片付けなきゃいけないんだった…」

( ノ^^)、「ニコが押し入れの扉開けたら落ちてきちゃったの……。
    でも……重くて、動かせなくて……」

( ノ;-;)「……お、おかーさんのお手伝いしようと思ったのに……おかーさんに、っ迷惑……」

忘れていた状況を思い出し言葉にしたことで、自分の力だけではどうしようも出来ない現状に涙がこみあげてくる。
ニコが泣くと母も悲しい顔をした。母に悲しんでもらいたくないからいつも笑顔でいようと決めていたのに。

そんなニコを、困惑の表情で見つめるグリート。
「願いを叶える魔神」という存在がゆえに、子供に泣かれたことが一度も無かった。
状況を何とかしたいならそれを願えば良いのでは、と言おうとして少し考える。
ここで試しに魔法を見せて、もっと欲深い、大きな願いをしてもらえばいいのではないか。

( [:| [ー]|:])「仕方ない。特別に一度だけ手伝ってやるのである」

グリートが少し手を動かすと、部屋に散乱した荷物はふわりと浮き上がり、押し入れの中にすっぽりと収まった。 おそらく、元々の収納状態よりも良い。

( [:| [〒]|:])「どうだ?我輩に願えばこれ以上のことも何でも思い通りなのである。分かったら早く──」

( ノ。^^)「あ、ありがとう!ありがとうおじちゃん!」

( [:| [〒]|:])「え」

グリートからしてみれば、願い事のきっかけになればと魔法を使って部屋の荷物を押し入れに詰め込んだだけだったが、ニコにとって、それは大変な僥倖であった。
母の手伝いをするという当初の目的からすればマイナスがゼロになっただけだが、今はそれでよかった。

今までと変わらぬ笑顔のはずだが、ニコの表情は心からの感情が滲み出ている、と表現するに値するだろう。

──『ありがとう!』

それはグリートにとって久しぶりに聴いた言葉であり、久しぶりに自らに向けられた感情だった。
願いを叶えるだけの存在なのだから感謝などされなくて当然だし、グリート自身も別に気にしていなかった。

なのに、あまりに嬉しそうにお礼を言ってくるものだから、

( [:| [〒]|:])(やってよかった……のか…?)

( [:| [〒]|:])「……役に立ったなら、良かったのである」

( ノ*^^)

嬉しい、と思った。


   『やあグリート。つまらなさそうな顔をしているな』

   『……誰のせいだと…。貴様がさっさと願い事を決めないからである』

   『うーん……私なりに考えてはいるんだが、なかなかひとつを選ぶのは難しい。
   でも、確かにこれ以上君を縛るのもかわいそうだ。
   "次"は近くに困ってる人がいたら、その人を助けるために力を使ってほしい……とか。
   どうだろうか?』

   『変わった欲である……というか、むしろ変態であるな……』

   『失礼な奴だ。人のために何かするというのは、世界が良くなるための第一歩だと……私は思うんだがな』


( [:| [ー]|:])(…………ああ、なるほど。
      我輩が目覚めたのは前回の主人の願い事のせいであったか……。
      となるとこの幼子、叶えたい願いがあったのではなく本当にただ困っていただけのようであるな)

( [:| [〒]|:])(今ので困り事は解決してしまったようであるが……)

( [:| [ー]|:])「…………。
      …"ご主人"、我輩はしばらくここにいることにしたのである。困ったことがあれば、呼ぶといい」

「ここにいるから」、と言いながらグリートは自分が眠っていた赤い提灯を手繰り寄せ、もう一方の手でポンポンと叩く。

( ノ^^)∂「ごしゅじん」

( ノ^^)「……なんで?」

( [:| [〒]|:])「ご主人には願い事がまだ残っているからである。
      …まあ、それに貰った菓子の分くらいは、力になるのである」

( ノ^^)「わかった。
   じゃあお洗濯物取り込むの"手伝って"ほしい」

( [:| [〒]|:])「早速であるな…いや…いいけど…」

ニコはベランダへ続く窓を全身に力を込めて開けた。

( ノ^^)「踏み台あるけど、お布団は重くて多分持てないから……
   おじちゃん一緒に持ってね」

ひゅう、と小さく冷たい風が吹いた。
ベランダに踏み台を設置し終え、ニコは部屋にいるグリートに向き直る。
流れる雲を背景に揺れる洗濯物を見たまま、グリートは黙っている。
返事がない。
ニコは首を傾げ、グリートが動くのを待つ。

( [:| [〒]|:])「……ご主人の母はご主人にこの仕事をしろと言ったのであるか?」

( ノ^^)「え?
   言ってないよ。ニコがやるって決めた」

( [:| [〒]|:])「我輩が思うに…ご主人にこの作業は危険である。
      我輩がやっても良いのであるが、それを母になんと説明するのである。
      おそらく我輩のことを認識できるのは、ご主人だけであるよ」

( ノ^^)、「でも、雨が降ったら洗濯物が濡れちゃう…おかーさん悲しむ…」

( [:| [〒]|:])「ふむ。雨が降らなければ良いわけであるな。
      それなら簡単である。ご主人、今日雨は降らないのであるよ」

さも当然といったような口調でグリートは告げる。
ニコは空を見上げるが、吹く風は冷たく、空の青は雲に隠され先程よりも少なく思えた。
不安そうにグリートを見つめ返すニコ。
対するグリートは明るく言う。「さっき見せたのに、我輩の魔法をまだ信じていないであるな」

( [:| [〒]|:])「もし降ったらその時は我輩がなんとかするから……まあ、ご主人はお菓子でも食べながらのんびり空でも見ていると良いのである」

自分が何とかするから、とまで言われてしまい、ニコは上っていた踏み台から下りる。
踏み台も室内に入れ、元通りキッチンのシンクの下に設置し直す。
そして、もし雨が降ったらグリートに文句を言ってやろうとベランダの窓に張り付き空を眺める。
確実に増えて厚くなっていく雲、これは雨が降る前触れだ。
公園で遊んでいるとき、母に「もうすぐ雨が降るから」と言われ、渋々帰る時の空だ。

( ノ^^)「どうか雨が降りませんように」

自分で洗濯物を取り込めない以上、洗濯物を濡らさないようにするためにはしばらく雨が降らないことを祈るしかない。
グリートはその祈りが自分に向けられたものではないことを感じ取り、神という概念に少しばかり嫉妬した。
自分も神のはずなのだが。

ふたりはお菓子の入った袋からクッキーを取り出すと、個包装されたそれを開封し、空を眺めながら一口かじった。


第一話「開封」 -完-

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